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  • 2025/10/07 ≪HBLOコラム≫ 2025年10月1日施行、公正証書のデジタル化
論文

谷貝彰紀弁護士

≪HBLOコラム≫ 2025年10月1日施行、公正証書のデジタル化

2025年10月1日、改正公証人法等の施行により、長年「紙と対面」が原則だった公正証書手続がデジタル化されました。オンラインでの嘱託、公証人とのリモート面談、電子署名、公正証書データの電子交付・保存が可能となっています。
これまで公証役場に出向く必要があった契約書の作成や本人確認が、自席や会議室から完結できる。企業実務にとっては「地味だが確実に効くDX化」といえるでしょう。

 

1.従来の公正証書制度

(1)公正証書とは

公正証書とは、公証人(法務大臣が任命する法律実務家)が、公証人法に基づき作成する公的証拠力を有する文書です。
特に金銭消費貸借契約、滞納された債務の弁済契約、協議離婚契約等において、「債務不履行の際には直ちに強制執行できる旨」を定めた条項を入れることで、裁判を経ずに強制執行が可能となります。つまり、公正証書は、債権回収・契約担保のための重要な法的ツールです。

(2)従前の作成手続

これまでの制度では、実印・印鑑証明書の提出、役場への出頭、紙書類の授受が必須でした。
特に複数当事者がいる場合や、地方・海外からの出頭が必要な場合には、時間・コストの負担が大きいという課題がありました。

 

2.追加される新手続

このような公正証書の作成手続に、以下のリモート方式が選択肢として新設されました。

(1)オンライン嘱託

利用者(嘱託人)は、公証人に対してオンラインで嘱託(申請)を行うことが可能

(2)リモート面談

公証人による本人確認・内容説明・意思確認が、ウェブ会議システムを通じて実施可能

(3)電子署名の導入

紙の署名・押印に代えて電子署名を使用

(4)電子公正証書の交付・保管

完成した公正証書はPDF等の電子ファイルとして交付され、公証役場サーバー上に保管。謄本請求・閲覧もオンライン化

 

3.リモート方式の主なメリット

(1)手続きの迅速化とコスト削減

これまで必要だった出頭・印紙・郵送が不要となり、作成期間が大幅に短縮される見込みです。
当事者が遠隔地であったり複数いる場合でも、ウェブ会議で手続が完結するため、交通費削減や日程調整等の手間を省くことができます。
これにより、社内決裁や資金調達のスピードが向上し、機会損失を防ぐ効果が期待されます。

(2)文書管理の効率化・リスク低減

電子公正証書は、公証役場のサーバー上で原本が保管され、データの改ざん・紛失リスクがほぼ排除されます。企業側では公正証書を電子データとして安全に保管でき、契約書管理システムとの連携も可能となります。

(3)国際・遠隔地取引への対応力向上

当事者が海外等の遠隔地にいる場合等でも、オンライン面談・電子署名で作成が可能になります。

 

4.実務上のポイント・問題点

(1)公証人が電子公証に対応していないリスク

公証人ごとにリモート方式の対応可否が異なるため、事前確認が必要です。(法務省「指定公証人一覧」参照

(2)公証人判断による制約

公証人が「リモートでは本人確認が不十分」と判断すれば、出頭が必要となります。
このため、電子化を前提としたスケジュール設計には一定の余裕を持たせる必要があります。

(3)WEB会議に対応可能なパソコンや電子サインの機器の準備

スマートフォンやタブレットは使用不可とされています。対応可能な機器を準備しておく必要があります。

(4)システム障害・保全リスク

電子データは改ざん防止に強みがある一方、サーバー障害やアクセス不能時の代替手段を社内で確保しておく必要があります。バックアップの取得や紙での写しの保管等の対応をご検討ください。

(5)契約管理の混乱リスク

紙と電子が混在する過渡期では、「どの契約が電子公正証書で、どれが従来形式か」を把握する管理体制が不可欠です。
稟議・承認・保存のルールを早期に統一しておくことが、トラブル防止の鍵です。

 

5.まとめ:法務DXの実践ステージへ

2025年10月1日の公正証書デジタル化は、単なる制度改正ではなく、企業法務の業務設計を再構築する契機です。今後は「紙の確実性」から「電子の即応性」へと重心が移り、契約締結・執行の在り方が変わっていくと思われます。今のうちから、
■ 社内規程と稟議フローの整備
■ 電子署名環境の導入
■ 公証役場との連携ルートの確立
を進めておくことが、重要です。
当事務所においても、クライアントの皆様から公正証書化をご依頼されるケースが多々あります。今後は、リモート方式の活用によりさらに迅速に対応してまいりますので、遠慮なくご相談ください。

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