セミナー・論文等
西野肇弁護士
≪HBLOコラム≫ 不正を見逃さない!~内部通報窓口の体制強化で信頼ある職場へ~
パートナー弁護士の西野肇です。冬の寒さが深まり、空気が澄んで見渡す景色も一段と鮮やかに感じられる季節になってきました。企業にとっても、冬の景色のように清廉を保ち、社員が安心して働ける職場環境を確保することが重要です。しかし、職場における不正やハラスメントなどの問題が放置されていると、その実現は非常に困難です。
このような問題を早期に発見し、適切に対処するためには、“内部通報制度の積極的な活用”が欠かせません。ただし、相談者(通報者)が報復を恐れ、通報を躊躇するようでは、制度の実効性は損なわれ、問題が放置されかねません。実際に、2023年に発覚したダイハツ工業の認証不正問題では、第三者委員会の調査報告書において、「内部通報を行っても…隠蔽されるか、通報者の犯人捜しが始まるだけです」とする社員の証言が引用され、内部通報制度が有効に機能していれば問題が早期に把握された可能性があると指摘されています(同112頁)。
今回は、相談者が安心して声をあげられる内部通報制度を構築するために、内部通報対応の際に心得ておきたい2つの重要なポイントをご紹介します。その上で、企業という組織において、実効性ある内部通報窓口の必要性とその理解と支援の重要性ついて考えてみたいと思います。
1 内部通報窓口が果たすべき役割とは?
内部通報制度は、不正行為やハラスメントなどの問題を早期に発見し、是正するための有効な手段です。近年でも、ENEOSホールディングスにおけるセクハラ問題を始め、内部通報を発端として、企業内の不正行為や役職員によるハラスメントなどの不祥事が発覚しています。
内部通報制度は、企業の健全性を図る“バロメーター”です。内部通報窓口が積極的に活用されている状況は、企業内の透明性やコンプライアンス意識の高さを示しており、社員が信頼をもって働ける職場環境であることを示しています。つまり、内部通報窓口が“バロメーター”として機能していれば、企業内での問題を早期に発覚し、適切に対処することが可能となるのです。
しかし、“バロメーター”として機能するためには、単に内部通報窓口を設置するのみでは不十分です。内部通報を受けた際に、“相談者を守る”ことを第一に、実効性のある内部通報窓口として運用することが必要不可欠であり、企業という組織においても、その必要性を理解し、内部通報窓口担当者への支援の重要性を強く認識することが必要不可欠です。
2“相談者を守る”対応とは?
相談者が安心して声を上げるためには、相談者の保護が極めて重要です。相談者は、職場をよりよくしたい、会社をよりよくしたい、という決死の思いで内部通報をしています。その思いを尊重するためにも、内部通報窓口の運用に際しては、“相談者を守る”対応が必要不可欠です。
具体的に“相談者を守る”ために重要なポイントは、次の2つの視点です。
2-1 匿名性の確保
匿名性の確保(相談者を社内外に明かさないこと)は、相談者が安心して声を上げるための最も重要なポイントです。相談者の多くは、上司からの報復や職場内での孤立が生じ得るため、自分が相談を行ったことを職場内に知られることを大変恐れています。そのため、調査に際して必要性があり、かつ相談者の承諾が得られた場合でない限り、相談者の匿名性を確保し、調査を進めていくことが必要です。場合によっては、外部機関を介した通報の受付を実施するなど、企業として相談者の匿名性を確保するための手段を積極的に導入することが求められます。
2-2 不利益取扱いの禁止
相談者が内部通報を理由に上司から報復を受ける又は減給、降格などの懲戒処分を受けるなど、不利益を被るような状況は、内部通報制度の信頼性を大きく損ないます。調査を進めるに際しては、関係者に対する注意喚起を実施し、万一、不利益取扱いが発覚した場合には対象者に懲戒処分を実施するなど、企業として不利益取扱いを徹底的に禁止する強いメッセージを発信することが必要です。
3“実効性ある内部通報窓口に向けた理解と支援の重要性”
内部通報窓口が“相談者を守る”ことなくして、企業の健全性を図る“バロメーター”、すなわち実効性ある内部通報窓口として機能することはあり得ません。しかし、“相談者を守る”対応は決して容易ではなく、窓口担当者は、悩みを抱えながら対応にあたっているケースがほとんどです。
そのため、企業という組織全体においても、内部通報窓口の重要性を改めて認識し、迅速かつ的確な対応を実施するために必要な人員体制を確保する、社外弁護士への相談の機会を確保するなど、窓口担当者の悩みの解消に向けたサポート体制を構築することが必要不可欠です。
また、実効性ある内部通報窓口を設置し、企業内の不正行為やハラスメントなどの問題が生じた際、社員が迷わず内部通報窓口を活用することができれば、不正行為などを早期に発見し、適切な対処が可能となり、結果として不正リスク低減や企業としての社会的信頼の向上につながります。
相談者が安心して声を上げることができる環境を整備することは企業の責務です。そのためには、“相談者を守る”実効性ある内部通報窓口の設置が必要であり、かつ企業として、内部通報窓口への理解と支援が重要であることを認識する必要があります。
実効性のある内部通報窓口の設置は、「不正を見逃さない職場」を実現し、組織全体のコンプライアンス意識を強化する基礎となるのです。
4“おわりに”
アメリカには「To sin by silence when they should protest, makes cowards out of men.」(抗議すべき時に沈黙により罪を犯すことは臆病者だ)という言葉があります。不正や不当なこと(不正義)が起きた際に声を上げずに黙っていること自体が道徳的な罪であり、立ち上がって抗議するべき時に沈黙していることは、結局はその不正に加担しているのと同じ(臆病者)だ、という意味です。
企業においても、無責任な沈黙によって不正を許容する体制は決して許されるものではありません。見て見ぬふりを許さず、自社を守るために立ち上がる勇気を後押しすること、つまり“内部通報制度の積極的な活用”を後押しすることが、“臆病者”を許さないという企業の姿勢として、非常に重要であり、“不正を見逃さない職場”を実現するための第一歩であると考えています。
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