セミナー・論文等
西野肇弁護士
≪HBLOコラム≫ “就活セクハラ”は企業リスクに直結!~対策義務化に向けて企業がいま実施すべきこと~
パートナー弁護士の西野肇です。12月に入り、街はイルミネーションの光で彩られ、クリスマスを待ちわびる華やかな空気に包まれています。今年も気づけば年の瀬が近づいており、“師走”ならではの慌ただしさを感じながら、あっという間の一年に驚きも感じています。
この時期は、今年を振り返りながらも、新年度に向けた準備も本格化するタイミングではないでしょうか。企業の採用担当者にとっても、採用がひと段落したのも束の間、インターンシップの設計や選考プロセスの見直し等、次期採用に向けた動きが活発になる頃かと思います。
さて、そんな慌ただしさのなかで、採用現場にとっては見過ごせない法改正が進んでいます。2025年6月の男女雇用機会均等法の改正により、求職者に対するセクシュアルハラスメント(「就活セクハラ」)防止に向けた対策が、企業の義務として求められることになりました。このことにより、これまで企業の自主的な取り組みに委ねられていた就活セクハラ対策は、明確な法的義務として企業が責任をもって対応すべき領域へと位置づけられます。
そこで本コラムでは、法改正の背景や、就活セクハラ対策の義務化に向けて企業がいま実施すべき具体的な取り組みについて、考えていきたいと思います。
1. 深刻化する就活セクハラの実態~約4人に1人が被害者に~
厚生労働省が公表した「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(令和5年度調査)では、実に学生等の求職者のうち約30%が就活セクハラの被害を経験しています。その詳細は、以下のとおりです。
⑴ 約4人に1人が就活セクハラ被害(就活セクハラを受けた経験)
・インターンシップ中 :30.1% (男性:32.4%、女性:27.5%)
・インターン以外の就職活動中 :31.9% (男性:34.3%、女性:28.8%)
驚くべき点として、男性の方が女性よりも経験した割合が高いという結果も示されています。
⑵ 最多は大学OB・OGからの就活セクハラ(就活セクハラの加害者)

(出典:厚生労働省HP「会社を揺るがす大きなリスク今すぐ始めるべき就活ハラスメント対策!」)
⑶ 最多は「食事やデートへの執拗な誘い」(就活セクハラの具体的な内容)

(出典:厚生労働省HP「会社を揺るがす大きなリスク今すぐ始めるべき就活ハラスメント対策!」)
⑷ 被害が多い場面は「リクルーターと会ったとき」(就活セクハラの場面)

(出典:厚生労働省HP「会社を揺るがす大きなリスク今すぐ始めるべき就活ハラスメント対策!」)
採用担当者だけではなく、「SNSや就活マッチングアプリを通じて志望先企業の従業員とやりとりや相談等を行っていたとき」(23.8%)や「志望先企業の従業員との酒席の場」(20.4%)等、採用選考に関わる担当者“以外”が関与しているケースも多くみられます。
上記の数字は、当社の就活セクハラとは無関係、と楽観視できる状況ではないことを示しています。企業の社会的責任が拡大する中で、採用担当者を始めとする社員の一挙手一投足は学生等の求職者から注視されています。今こそ企業は、就活セクハラの実態を理解し、その対策に真正面から向き合い、社内ルールの整備や教育、相談体制の構築など、就活セクハラ対策への取り組みを主体的に進める必要があります。
2. 企業が取り組むべき「就活セクハラ」対策とは?
では、具体的に何に取り組む必要があるのでしょうか。
⑴ 就活セクハラとは
就活セクハラとは、一般的に、就職活動中やインターンシップの学生等に対するセクシュアルハラスメントの総称を指します。「食事やデートへの執拗な誘い」や「性的な冗談やからかい」に加え、以下のような事例も就活セクハラに該当する一例です。
≪就活セクハラの一例≫

(出典:厚生労働省「就活ハラスメント対策リーフレット」2頁)
⑵ 企業が取り組むべき「就活セクハラ」対策
改正男女雇用機会均等法により、企業は、求職者等に対するセクハラ防止のために、「求職者等からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」(改正男女雇用機会均等法13条1項)とされています。
具体的な内容は、今後指針において明確化される予定ですが、少なくとも、
① 就活セクハラ防止に向けた方針等の明確化及びその周知・啓発
・就活セクハラを禁止する方針の明確化及び全従業員(特に採用担当者)への周知
・学生と接する際、採用担当者は2人以上とする等、採用活動におけるルールの明確化
・就活セクハラを含むハラスメント防止に関する研修の実施 等
② 求職者からの相談体制の整備・周知
・学生等の求職者向けのハラスメント相談窓口の設置
・上記相談窓口の募集要項での明記(周知) 等
③ 就活セクハラ発生後の迅速かつ適切な対応
・就活セクハラに関する相談への迅速な対応及び被害者への謝罪
・就活セクハラを行った従業員に対する懲戒処分の実施 等
の3つは、実施が必要です。より詳細な設計については、厚生労働省が公表する「就活ハラスメント防止対策 企業事例集~学生を守り、企業を守る、10社の取組み~」に掲載された好事例集を参考に、各社の実態に応じて設計することが重要です。
≪企業事例集から“注目の事例”をピックアップ≫
積水化学工業株式会社~個人情報の厳格な管理が就活ハラスメントの防止につながる~
応募者のエントリーシートに記載されている個人情報(住所・電話番号・メールアドレス等)を面接官が閲覧できないようにし、面接者が応募者に直接連絡できない仕組みを導入。
★注目点:応募者との接触機会そのものを制限する制度的アプローチ
3. 就活セクハラ対策は企業を強くするための重要投資
就活セクハラは、不適切な行為にとどまらず、立場の弱い学生等の尊厳や人格を不当に傷つける許されない行為です。また、厚生労働省が公表した「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」(令和5年度調査)においては、就活セクハラを受けた求職者の約4割が「就職活動への意欲が減退した」と回答しており、企業が本来採用し得たはずの優秀な人材を失う深刻な要因となっています。就活セクハラが表面化した場合、学生等の求職者からの信頼は大きく損なわれ、引いては企業の社会的信用の低下に繋がります。学生等の求職者は応募を控え、大学も推薦を避けるようになる等、結果として人材獲得競争にも甚大な影響を及ぼすのです。
採用担当者だけではなく、学生等の求職者と接する社員は全て“企業の顔”です。就活セクハラへの対策強化は、単なる法令順守の問題だけではなく、これら企業の顔たる社員に対する意識の徹底を図ることで、企業としての採用力を高め、企業をより強くしていくための重要な投資でもあるのです。企業としての誠実な姿勢と就活セクハラ防止に向けた事前の備えが、未来の優秀な人材との出会いを広げ、組織の健全な成長につながっていく、就活セクハラへの対策は、その第一歩だと思います。
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