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≪HBLOコラム≫ バックグラウンドチェックを適切に実施して採用リスクを回避しましょう!〜経歴詐称による内定取消を有効とした裁判例を踏まえた法的留意点の紹介〜
中途採用時に候補者の経歴等を調査する「バックグラウンドチェック(前職調査)」を導入する企業が急増しています。日本経済新聞(2026年6月26日付)も報じたとおり、今やバックグラウンドチェックは大手企業からスタートアップまで広く普及しつつあります。
今回は、近時の裁判例を踏まえつつ、企業が知っておくべき法的留意点を整理します。
1 バックグラウンドチェックとは
⑴ バックグラウンドチェックとは
バックグラウンドチェックとは、採用候補者の経歴、犯罪歴、反社会的勢力との関わり、人柄等を採用前に調査することであり、採用のミスマッチや採用後のリスクを回避するために実施します。
⑵ バックグラウンドチェック実施の留意点
バックグラウンドチェックを無制限・無条件に実施することはできません。バックグラウンドチェック実施の留意点は以下のとおりです。
① 個人情報保護法・プライバシーへの配慮に基づく同意の取得が必要
前職の勤務先が対象者の在籍情報等を外部に提供することは、個人情報保護法上「個人データの第三者提供」に該当し、対象者の同意が必要です。また、個人情報に該当しない情報であっても、対象者のプライバシーに配慮するため、対象者本人の同意を取得することが望ましいです。
したがって、対象者から、バックグラウンドチェックを実施すること及びその調査範囲についての明示の同意を取得した上で、バックグラウンドチェックを実施することが必要となります。
② 社会的差別の原因となるおそれのある事項等は収集禁止
厚生労働省告示により、以下の情報の収集は原則として禁止されます。
・人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項
・思想及び信条
・労働組合への加入状況
③ SNS調査は基本的に同意なしで実施可能
SNS上に一般公開された情報を取得することは自由であり、対象者の同意は必要ありません。
④ 学校・認可保育所・認定学習塾等では性犯罪歴の確認必須
こども性暴力防止法(2025年12月施行)により、学校・認可保育所・認定学習塾等では、採用候補者に性犯罪歴がないかを確認する義務が課されます。したがって、教育・保育関係の事業者は、バックグラウンドチェックをもって上記義務を履行することが考えられます。
2 バックグラウンドチェックにより経歴詐称が発覚した場合に内定取消できる?
バックグラウンドチェックにより経歴詐称が発覚した場合、採用後であっても内定取消はできるのでしょうか。内定取消を認めた近時の裁判例をもとに検討します。
⑴ 事案の概要-A社によるバックグラウンドチェックと内定取消-
原告X(「X氏」)は、被告(「A社」)の中途採用求人に申し込みました。A社は書類審査と面接を経てX氏にオファーレターと雇用契約書を送付。雇用契約書には「標準的な経歴調査に対し全面的に協力し、当該経歴調査を問題なく完了させること」が採用条件として明記されていました。
その後、A社がバックグラウンドチェックを実施したところ、X氏が提出した履歴書・職務経歴書には、直近1年間に在籍した企業2社との雇用関係が一切記載されていないことが判明しました。しかも、X氏は上記2社と解雇又は雇止めをめぐり紛争となっていました。
A社は入社予定日の2日前に内定を取消し。X氏はこれを不服として地位確認等を求めて提訴しました。
⑵ 判決のポイント―内定取消が認められる場合-
東京地裁は、内定取消を認め、X氏の請求をすべて棄却しました。判決では、従来の判例法理を踏まえ、以下のいずれかが認められる場合は解約権が行使できるとしました。
・単に虚偽記載の事実が判明しただけでなく、労働者の資質・能力を客観的合理的に見て誤認し企業の秩序維持に支障をきたすおそれがある場合
・円滑な相互信頼関係を維持できない性格を欠き企業内にとどめおくことができないほどの不正義性が認められる場合
X氏は控訴しましたが、東京高裁は控訴を棄却して一審判決を維持しました。これに対し、X氏は上告しましたが、最高裁は上告を棄却。判決が確定しました。
3 判決を踏まえた実務上のポイント
本判決は、バックグラウンドチェックに基づく内定取消を認めた点で大きな意義がありますが、本判決の法理に基づいても、バックグラウンドチェックに基づく内定取消の有効性は慎重に判断しなければならないことに変わりありません。例えば、経歴の誤記や記載漏れ、職務能力の評価に影響しない情報の不告知をもって内定取消しを行った場合、無効と判断されるリスクは十分にあります。
上記を踏まえ、バックグラウンドチェックを適法かつ実効的に運用するために、企業として押さえておくべきポイントを整理します。
① 同意書の取得
バックグラウンドチェック実施前に、目的・対象・方法・情報の利用範囲を明示した同意書を取得する
② 契約書への明記
オファーレター・雇用契約書にバックグラウンドチェックの結果による内定取消の可能性を明確に記載する
③ 調査範囲の限定
社会的差別の原因となるおそれのある事項・思想や信条は収集しない
④ 結果の開示
内定取消を行う場合は、調査結果の内容を対象者に開示、説明する。本人に弁明の機会を与え、公正性確保に努める
⑤ 判断の比例原則
詐称の内容・規模・悪質性に比例した対応をとる
⑥ 弁護士との連携
バックグラウンドチェック会社の選定や調査委託契約の内容について、弁護士に事前に確認する
中途採用が当たり前になった今日、企業が採用候補者の実像を正確に把握しようとするニーズは高まっています。他方で、調査方法の適法性・候補者のプライバシー保護・公正な選考プロセスの確保は、企業のコンプライアンス上の重要な課題でもあります。
適法かつ効果的なバックグラウンドチェックの運用体制を構築すること、そして、バックグラウンドチェックの結果に基づき的確な対応をとることが、企業にとっては重要となります。
当事務所では、採用に関する制度構築や書面作成、バックグラウンドチェックの適法性確認、内定取消等の個別案件に関するご相談まで、幅広く対応しております。人事・労務に関するお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。
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